ヨハン・ザルコの経歴、特徴、エピソード
ヨハン・ザルコは2017年にMoto-GPデビューした期待の新星です。2年連続でMoto-2クラス年間チャンピオンになり、2017年はサテライトチームからのMoto-GPデビューにも関わらず、年間ランキング6位と健闘しました。
親日家として有名で派手なパフォーマンスをすることから、日本人のファンも多く、若手の中では珍しく明るく個性的なキャラクターで、これからのMoto-GPを盛り上げられる逸材です。
Moto-2で2年連続チャンピオンの実績があれば、ファクトリーチームに加入してもおかしくないですが、ヤマハ(ファクトリーチームのモビスター・ヤマハ)は、2017年シーズンのライダーとして早々にビニャーレスの獲得を発表しました。
もう1つのシートはスター性の高いバレンティーノ・ロッシで固定されていたため、ヤマハの枠がないこともあって、1年落ちのYZF-M1を使用する、サテライトチームのモンスター・ヤマハテック3に加入した経緯があります。
2017年は新人王とインディペンデントチームライダー部門の2冠を達成し、もっともファクトリーチーム加入に近い存在です。2018年シーズンも各サテライトチームのライダー契約が残っている関係もあり、モンスターヤマハテック3で残留することが決まっていますが、順当に行けば2019年よりファクトリーチーム移籍になるでしょう。
ヤマハは現在、ビニャーレスとロッシがいますし、若手で2017年シーズン3位と活躍したビニャーレスは今後の成長性も含めて残留が濃厚です。2017年シーズンの成績だけを見ると、ロッシと入れ替えが有力になりますが、果たして生ける伝説のロッシがシートを失うのか?それともヨハン・ザルコが違うメーカーへ移籍するのか?
ヤマハのシートや各チームライダーの移籍情報も、2018年シーズンの見所です。
※2018年1月5日現在
氏名 | ヨハン・ザルコ(Johann Zarco) |
---|---|
所属チーム | モンスター・ヤマハ・テック3 |
生年月日 | 1990年7月16日(27歳) |
出身地 | フランス・カンヌ |
主な実績 | Moto-2年間チャンピオン2回、Moto-GP2017年間ランキング6位 |
驚異的な身体能力
ヨハン・ザルコの代名詞のひとつは、優勝した時に披露するバク宙パフォーマンスです。コース脇にバイクを停めて、ガードレールやタイヤバリアの上から後方宙返りをしながら飛び降りてファンを沸かせています。
レーシングスーツとヘルメットを着用したままパフォーマンスを行うのは、平地でバク転、バク宙するよりも難易度が大幅に高く、身体能力は歴代のGPライダーの中でもトップクラスです。最初にバク宙披露したのは2015年のアルゼンチンGPで、その後は優勝時のパフォーマンスとして定例になりました。
Moto-GPクラスに上がってからは表彰台3回獲得したものの、優勝はありませんでした。2018年シーズンは、Moto-GPの決勝レース終了後にバク宙パフォーマンスを見られる日が来るのか注目です。
旭日章のヘルメットを被る理由
気分屋でヘルメットデザインを頻繁に変えますが、一番多く着用しているのは旭日章を大きく施したデザインです。マネージャー兼コーチを務めるローラン・フェロン氏、90年代にMoto-GPでメカニックをしていて、当時WGP125ccクラスで活躍していた上田昇、坂田和人、青木治親のファンでした。
ヨハン・ザルコは若いときに、コーチから日本人ライダーのテクニックを熱く語られることが多く、その影響で本人も日本をリスペクトするようになって、旭日章のヘルメットを好んで使っています。ちなみにヨハン・ザルコとローラン・フェロン氏は熱い信頼関係を持っています。
2009年にWGPデビューしても待遇は悪く、チームから給料をもらったのは2012年にMoto-2に昇格してからでした。
チームから給料をもらえないライダーでも、スポンサーから給料や小遣いを支給されるケースはよくありますが、フランス人であることを理由にスポンサーも付きにくく、マネージャーを務めていたローラン・フェロン氏の私財を売って、125ccクラス時代の資金を確保していました。
Moto-2で2年連続チャンピオンからMoto-GP昇格と聞くと、順風満帆な天才ライダーのように思ってしまいますが、若手時代は大きな苦労をしていました。
タイヤに優しいライディングスタイル
ブレーキング勝負や立ち上がりの加速では勝負せずに、教科書通りの派手な操作をしないライディングスタイルが特徴です。優勝後の派手なパフォーマンスとは逆に、バイクに乗ると、技巧派で堅実な走りを披露します。
ライディングスタイルとコーナリング性能の高いヤマハとの相性もよく、今後もヤマハとの契約にこだわると予想しています。タイヤに不可をかけない走り方をするので、ソフトタイヤを選択する機会が多く、タイヤの負担が少ない走り方で、後半追い上げることを得意にしています。
現在のMoto-GPはミシュランのワンメイクで、ソフトタイヤの耐久性が低く、ミディアムのグリップ力に課題もあるなど、各チームでタイヤマネジメントに苦労していました。ソフトタイヤを選んで、後半グリップ力を失い失速するライダーの多い中で、後半までタイヤを残して走り続けたことが2017年シーズンで活躍した要因です。
サテライトチームのマシンは電子制御がファクトリーチームのマシンに僅かに劣っている部分があります。ファクトリーチームのライダーですらタイヤの消耗に苦労するケースが目立っていた中で、サテライトチームのマシンでタイヤを残して走り続けるのはライダーが腕の良い証拠です。
ただし、ミシュランタイヤに苦労したライダーが多い中で、マシンもタイヤもヨハン・ザルコにはまっていたことも確かで、今後タイヤ性能の改善やセッティングデータが充実すると、今までものようなレース展開は少なくなるかもしれません。
2018年シーズンはさらに躍進するのか?それとも壁に当たってしまうのか今から楽しみです。Moto-GPの決勝レースを見るときはヨハン・ザルコのタイヤマネジメントにも注目してみてください。
これまでのキャリア
2004年、13歳からポケバイでバイクレースを始めます。GPライダーの中ではバイクデビューは遅いですが、身体能力が高く抜群のセンスを見せていました。2007年にMotoGPサポートイベントであるレッドブルルーキーズカップのチャンピオンを獲得してWGPライダーへの道を切り開きます。(8戦中4勝、表彰台7回)
諸事情によって翌年はほとんどレース活動はできませんでしたが、2009年よりWGP125ccクラスにフル参戦をします。WGP125ccクラスでは型落ちのRSW125だったこともあり1年目20位、2年目11位の成績でしたが、3年目に強豪チームのアジョ・モータースポーツに移籍し最新マシンのRSA125に乗って飛躍します。
WGP3年目の2011年は年間ランキング2位に飛躍したシーズンでもありましたが、無駄なことをして初優勝を逃すというヨハン・ザルコの名前を有名にする出来事が起こります。第13戦サンマリノGP125ccクラス決勝にてゴール直前にニコラス・テロルにちょっかいを出して劇的逆転負けを許してしまいます。
それまでもあと一歩のところで勝ちきれないレースが多かった中で、無駄なちょっかいで1位を譲る姿はマヌケで、当時テレビ解説を務めていた解説の坂田和人が「なんというザルコのミス」と言葉を発して話題になります。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm15660269
現在のザルコは精神的にも大きく成長し、当時行っていた挑発行為等はせず、堅実なライダーの部類に入っています。2012年シーズンより、チャンピオンを争ったテロルと共にMoto2クラスにステップアップします。
毎年チームを変えて1年目10位、2年目9位、3年目6位で入賞はするけどチャンピオン争いはできないシーズンを続けていましたが、4年目の2015年シーズンにかつて所属していた強豪アジョ・モータースポーツへ復帰して覚醒します。
2015年は8勝、表彰台14回の352ポイントを獲得して、Moto-2新記録での初チャンピオンを獲得。翌年も7勝を挙げて、Moto-2クラス創設後初の複数回年間チャンピオンを獲得したライダーになります。
2017年にモンスター・ヤマハ・テック3から最高峰MotoGPクラスに昇格し、サテライトチームでありながら、いきなり開幕戦のカタールGPで先頭を独走する走りを見せます。結局カタールGPは転倒リタイヤになりましたが、大きなインパクトを残し、ザルコらしいデビュー戦でもありました。
その後は、シーズン終盤の2連続を含む表彰台3回獲得し、来季への飛躍を感じさせる内容でMoto-GP1年目を終えました。
WGP・MOTO-GPでの年間成績
シーズン | クラス | チーム | マシン | 優勝回数 | ランキング |
---|---|---|---|---|---|
2009年 | WGP125cc | WTRサンマリ | アプリリア・RSW125 | 0回 | 20位 |
2010年 | WGP125cc | WTRサンマリ | アプリリア・RSW125 | 0回 | 11位 |
2011年 | WGP125cc | アジョ・モータースポーツ | デルビ・RSA125 | 1回 | 2位 |
2012年 | Moto-2 | JIR Moto2 | モトビ・TSR2 | 0回 | 10位 |
2013年 | Moto-2 | カム・イオダレーシング | スッター・MMX2 | 0回 | 9位 |
2014年 | Moto-2 | エアアジア・ケータハム | ケータハム スッター・MMX2 | 0回 | 6位 |
2015年 | Moto-2 | アジョ・モータースポーツ | カレックス・Moto2 2015 | 8回 | 1位 |
2016年 | Moto-2 | アジョ・モータースポーツ | カレックス・Moto2 2016 | 7回 | 1位 |
2017年 | Moto-GP | モンスターヤマハ・テック3 | ヤマハ・YZF-M1 | 0回 | 6位 |
おわりに
ヨハン・ザルコは過去のレースキャリアの数字以上に魅力があり、エピソードの多いライダーです。これまで名前を聞いたことのある程度だった方は、この記事を見てザルコに興味を持っていただいた方もいるのではないでしょうか?
2011年の尖っていた時代の影響もあって、一部でアンチもいますが、近年のMoto-GPライダーの中ではスター性の高いルーキーです。現在のライディングスタイルは見ていてアグレッシブさが伝わってこないのがネックですが、エピソードを知っていると応援したくなる気持ちを抱いてしまいます。
年齢を考慮しても、ヤマハの有望株1番手はファクトリーチームで活躍するビニャーレスで、ヨハン・ザルコが将来チャンピオンを獲得すると予想している人は少ないです。しかし予想外のことをやってのける意外性を持っていて、最近はまとまりも良く安定感も出ています。
彼の魅力や個性が良い方向に動けば、年間チャンピオンの可能性もあり、過去のエピソードも含めて不気味さを持っています。まずは2018年シーズンで一度は優勝してバク宙パフォーマンスを見たいところです。

この記事を書いたのはライターのブルさん。
ベテランライダー。大型バイクから原二スクーターまで5台のバイクを乗り継いできた経験だけでなく、数々のツーリング経験、サーキット経験などバイクに関する豊富な経験を持つ。自動車業界に勤めていた経験もあり。
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